腕を横からゆっくり上げると、肩の高さに近づく途中で「ズキッ」と痛む。下ろすときにも同じ場所で引っかかる。夜は肩が痛くて寝返りがつらい——。そんな症状がある方は、単なる肩こりとは分けて考えることが大切です。
腕を約60〜120度上げ下ろしする途中で痛みや引っかかりが出るのは、肩のインピンジメント症候群でみられる特徴の一つです。この途中の角度で痛む現象は「有痛弧徴候(ペインフルアーク)」と呼ばれます。ただし、角度だけで病名は決まりません。腱板断裂、五十肩、石灰沈着性腱板炎など、似た症状を起こす病気もあります。順天堂医院のインピンジメント症候群の解説でも、この角度での痛みや夜間痛が紹介されています。
むさし鍼灸整骨院 久留米院の院長・吉武です。この記事では「60度付近で肩が引っかかる」「夜間痛がある」「手の握る力も落ちてきた」という方が、何を確認し、どこへ相談すべきかを具体的に整理します。
肩を上げると60〜120度で痛いのはなぜ?
途中だけ痛む「ペインフルアーク(有痛弧徴候)」
腕を真横に下ろした状態を0度、肩の高さまで上げた状態をおよそ90度とすると、60〜120度は肩の高さをまたぐ範囲です。この付近で痛みが強まり、さらに上げると痛みが軽くなったり、下ろす途中にも同じ角度で痛んだりすることがあります。
福岡整形外科病院では、このような60〜120度付近の運動時痛をインピンジメント症候群に特徴的な「有痛弧徴候」として説明しています。福岡整形外科病院の症状・検査の解説も参考になります。
とはいえ、痛みがある角度を確かめようとして何度も腕を上げ下げする必要はありません。痛みが増す動作は中止し、「上げる途中」「下ろす途中」「夜、寝返りをするとき」など、どの場面で痛むかを記録しておきましょう。
インピンジメント症候群とは「肩の中で組織が刺激される状態」
肩には、腕の骨と肩甲骨を支える「腱板(けんばん)」という筋肉の腱と、滑りを助ける「滑液包(かつえきほう)」があります。肩を上げる動作を繰り返す中でこれらの組織が刺激され、痛みを生じる場合があります。骨の形や加齢による変化、仕事・スポーツでの繰り返し動作などが関わることもあります。
イメージとしては、狭い通路を荷物が通るときに周囲へ触れるようなものです。ただし実際の肩は複雑で、「骨が必ずぶつかっている」「骨盤がゆがんだから起きた」と簡単に決められるものではありません。国立病院機構霞ヶ浦医療センターも、症状と検査を組み合わせて診断し、他の肩の病気を除外する重要性を説明しています。国立病院機構の解説
夜間痛・引っかかり・腕の力の入りにくさは何を示す?
夜中に肩がズキズキ痛む
インピンジメント症候群では夜間痛を伴うことがありますが、夜間痛は腱板断裂や五十肩などでも起こります。「寝れば治る」「夜だけなら肩こり」と考えず、睡眠に支障があるほど続く場合は整形外科で原因を確認しましょう。痛い肩を下にして横向きに寝るとつらい場合は、無理にその向きで寝る必要はありません。
肩がこわばり、服の着替えや洗髪がつらい
動かすと痛むために腕を使わなくなると、肩が動かしづらく感じられることがあります。一方、五十肩では関節そのものの動く範囲が狭くなりやすいという特徴があります。肩が固まっているのか、痛みのために自分で上げられないのかは、医師の診察で区別する必要があります。
握力低下・指のしびれがある場合は別の評価が必要
手で物を握る力が実際に落ちた、箸やコップを落とす、指がしびれる、手が動かしにくい場合は、肩だけの問題と決めつけないでください。握力低下はインピンジメント症候群の代表的な症状として一律に説明できるものではなく、首から腕へ向かう神経などの障害を調べる必要がある場合があります。
急に握力が落ちた、片側の腕や手に麻痺が出た、顔の動き・言葉・歩行にも異常がある場合は、救急対応が必要な可能性があります。症状が進行している場合も早めに医療機関で相談してください。腕や手のしびれ・首の神経症状についての関連記事もご覧ください。
インピンジメント症候群と五十肩・腱板断裂の違い
似た肩の痛みでも、必要な診察や対応は異なります。下の表は自己診断のためではなく、受診時に伝えるポイントを整理したものです。
| 考えられる状態 | 見られることがある特徴 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 肩のインピンジメント症候群 | 腕を上げ下ろしする途中、特に60〜120度付近で痛い・引っかかる | 肩の動き・腱板や滑液包の状態 |
| 肩腱板断裂 | 夜間痛、腕を上げる力が入りにくい、肩で擦れるような感覚 | 腱板の損傷の有無。必要に応じてエコー・MRI |
| 五十肩(肩関節周囲炎) | 夜間痛、洗髪・着替えのつらさ、肩の動く範囲全体が狭くなることがある | 関節の硬さと他の肩の病気の有無 |
| 石灰沈着性腱板炎 | 夜間の突然の強い痛み、少し動かすだけでも激痛となる場合がある | 石灰沈着の有無など |
| 頸椎・神経の問題 | 手や指のしびれ、握力低下、腕に広がる痛みなど | 神経学的診察や必要な検査 |
日本整形外科学会は、腱板断裂では夜間痛や腕を上げる力の低下が見られ、五十肩と違って肩の拘縮が少ないことがあると説明しています。日本整形外科学会「肩腱板断裂」、同「五十肩」をご参照ください。
実際には、症状が重なったり、複数の問題が併存したりします。「60度で痛むからインピンジメント」と確定せず、夜間痛・力の低下・外傷歴まで含めて評価することが重要です。
こんな症状なら整骨院より整形外科を優先
- 早めの受診:夜間痛で繰り返し目が覚める、痛みが続く、腕を上げる力が明らかに落ちた、肩の動く範囲が狭くなってきた
- 早急な受診:転倒やけがの後に急に腕が上がらない、握力低下や手のしびれが進む、肩が赤く腫れて熱を持つ・発熱を伴う
- 救急対応:突然の麻痺、顔や言葉の異常、胸痛・息苦しさ、耐え難い急な症状がある
肩の関節や腱板に問題が疑われる場合、整形外科では診察に加えてレントゲン、必要に応じて超音波(エコー)やMRIなどの検査を検討します。整骨院ではこれらの医師による診断や検査はできません。強い夜間痛や握力の低下を、施術だけで様子を見ることはおすすめしません。
受診までの過ごし方|やってよいこと・避けたいこと
痛みを再現する動作を繰り返さない
「何度まで上がるか」を確かめようと、痛みが出る角度まで何度も腕を上げ下ろししたり、重いダンベルで肩を鍛えたりしないでください。高い棚へ繰り返し物を置く作業や投球など、痛みを強める動作はいったん減らしましょう。
楽な寝姿勢を探す
痛い肩を下にして寝ると夜間痛が強まる場合は、反対向きや仰向けなど楽に感じる姿勢を探します。腕を支えるためにクッションを使うこともありますが、しびれが増す姿勢は避けてください。どんな姿勢でも強く痛む場合は受診を優先します。
完全に動かさず固定し続けるのも自己判断では避ける
痛む方向を無理に動かす必要はありませんが、医師の指示なく長期間まったく動かさないと関節が動かしづらくなることがあります。痛みのない範囲で日常動作を続けるかどうかは、けが・腱板損傷の可能性を踏まえて医師と相談しましょう。
温める・冷やす・市販薬は症状に合わせて
温めたり冷やしたりして一時的に楽になる方もいますが、それで病気が治ったと判断はできません。熱いカイロや氷を皮膚に直接当てるのは避け、薬の使用は持病・服薬状況を踏まえて医師や薬剤師に相談してください。
医療機関ではどんな検査・治療をする?
医師は、どの方向・どの角度で痛むか、肩に力が入るか、他の人が動かした場合にも制限があるか、首や指のしびれがあるかなどを確認します。その結果に応じて画像検査を組み合わせ、腱板断裂や石灰沈着などとの違いを調べます。
治療は原因によって異なり、負担となる動作の調整、薬・注射、理学療法などが検討されます。改善が難しい場合などには手術が選択肢になることもあります。インピンジメント症候群と腱板断裂、五十肩を同じ「肩こり施術」で一括りにしないことが大切です。治療方針は担当医と相談してください。
久留米市・むさし鍼灸整骨院で肩の悩みを相談する際に
当院では、首・肩・肩甲骨周囲の動き、仕事や日常生活でつらい場面、医療機関の受診状況を伺い、柔道整復師が対応可能な範囲の施術と生活動作の工夫をご案内します。状態によって手技やハイボルトなどを検討する場合もありますが、インピンジメント症候群の確定診断、腱板断裂の修復、神経障害の治療を整骨院だけで行えるわけではありません。
夜間痛が続いている方、握力が落ちている方、外傷後に腕が上がらない方は、先に整形外科で評価を受けてください。そのうえで身体の動かし方などに悩みがあれば、むさし久留米院へご相談ください。保険適用は施術内容と条件によって異なり、慢性的な肩こりなどは一般に柔道整復の保険対象になりません。
当院の初めての患者さま向けご案内と施術メニュー・料金で現在の情報をご確認いただけます。予約を希望される方はWEB予約状況をご覧ください。
四十肩・五十肩との違いについては四十肩・五十肩の記事、手の力が入りにくい・指がしびれる方は腕のしびれの記事も参考にしてください。
よくある質問
肩を60度上げたところで痛むのはインピンジメント症候群ですか?
その可能性はありますが、角度だけで診断できません。腱板断裂、五十肩なども考えられるため、続く場合は整形外科で診察を受けましょう。
腕を120度より上げると痛みがなくなります。放置しても大丈夫?
途中の角度だけ痛むのは有痛弧徴候に合う場合がありますが、腱板などの状態は分かりません。繰り返す痛み、夜間痛、力の低下があれば医療機関へ相談してください。
夜間痛と握力低下が両方あるのですが、マッサージでよいですか?
握力低下には肩以外の神経などが関係する場合もあるため、整骨院やマッサージだけで様子を見ず、早めに医師へ相談してください。突然の麻痺などがある場合は救急対応が必要です。
猫背矯正やハイボルトでインピンジメントは治りますか?
いずれも病気を確実に治すことが証明された方法として一律に案内できるものではありません。まず診断を受け、原因に応じた治療・リハビリの方針を確認しましょう。
まとめ|「60度で引っかかる」症状は、角度だけで決めつけない
肩を上げ下ろしする途中、特に60〜120度で痛みや引っかかりが出るのはインピンジメント症候群で見られる特徴ですが、夜間痛や腕の力の入りにくさがあれば腱板断裂、握力低下があれば首・神経の問題なども考慮する必要があります。まず医療機関で身体の状態を確かめ、その後に無理のない動き方や施術の選択肢を考えましょう。









